嗤うケダモノ
「善き事も悪しき事もありのままを受け入れ、飲み込み、己の中で昇華させる。
本当に、なんとも大きな器じゃて。
あの九尾をも取り込んでしまう訳じゃ。
杏子ちゃん。
アンタ、いい子育てをしなさったの。」
(…
全く…
ドイツもコイツも…)
イイ年した女、泣かそーとしないでよ。
グっと涙を飲んで。
意識的に口角を持ち上げて。
杏子が顔を上げる。
「空狐、アンタこれからどーすンの?」
まるで誤魔化せてナイよ?
一見してわかる、泣き笑いの顔だ。
だがそのことには一言も触れずに、空狐は白い顎髭を引っ張った。
「そうじゃの…
由仁に残った妖力のことも気懸かりじゃし…
しばらく厄介になろうかの。」
「じゃあさ、夕飯食べたら一杯付き合ってよ。
客に貰った1966年のドンペリプラチナ、開けちゃうからさ。」
「そりゃイイの。
美女の酌で旨い酒。
ますます寿命が延びるのぉ。」
今夜なら、コンビニで売ってる安いワインでも、なんだったら水道水だってきっと美酒。