嗤うケダモノ
怒りと苦悩を滲ませた空狐の言葉など気にする様子もなく、由仁は軽く両手を打ち鳴らした。
すると音感センサーを内蔵した照明が消え、部屋は行灯の仄かな灯りだけになる。
暗がりの中、空狐はベッドに横たわる由仁の足首をジっと見つめた。
本当に、どうするつもりだというのだろう。
今夜の生霊は、寝顔を晒すくらいで満足して帰るはずもないのに。
九尾の妖力を使えば、生霊など赤子同然に捻り潰せるだろうが…
生霊を生み出すということは、本人にとっても危険な行為だ。
頻繁になると実体のほうが衰弱して脱け殻のようになってしまうし、生霊へのダメージがそのまま実体に繋がることもある。
要するに九尾の妖力を生霊に奮えば、タニグチくん本人が危ないのだ。
それを由仁はわかっているのだろうか。
わかっていて、タニグチくんの生霊を招いたのだろうか。
邪魔者を葬り去るために…?
身に余るチカラを持った人間は時に増長し、傍若無人にそのチカラを奮って、周囲の人間はもちろん果ては自分自身までも破滅させてしまう。
そんな人間の愚かさを、長い年月を生きた空狐は幾度も見てきた。
もしも。
もしも由仁がそうなるのなら。
他の者を服従させるためにチカラを使うというのなら‥‥‥
空狐の瞳が、行灯のように昏く光った。