嗤うケダモノ

『…
あ… 俺 は‥‥‥』


夢の中にいるような頼りない口調で、タニグチくんが呟いた。

その瞳に、理性の光が戻ってくる。


「目ェ覚めた?
もーヒナの部屋の覗き見は禁止だから。
次やったら、目潰しの刑だからネー。」


頬を膨らませる由仁を見上げたタニグチくんの、泣き出しそうに歪んだ顔が透けていく。

透けて。
透けて。

闇に、溶けた。


「…
帰ったか。
己を取り戻したようじゃの…」


タニグチくんが溶けていった空間を見つめながら、空狐が言った。

なんてことだ。
こんな顛末は予想していなかった。

そもそも…


「おぬし、どうして九尾の妖力を使わなんだ?」


あっ!写真撮ンの忘れたー、なんて頭を抱える由仁を見上げた空狐が、どこか気の抜けた声で訊ねた。


「へ?
どーしてって、そりゃ…」


そんなの、決まってンじゃん。

< 160 / 498 >

この作品をシェア

pagetop