嗤うケダモノ
伍
「ヒーナー、行こー。」
放課後の昇降口。
靴を履き替えた日向の手からいつものようにスクールバッグを取り上げようとした由仁が、ふと視線を上げた。
そして、頭を掻きながら再び日向を見下ろして…
「忘れ物しちゃったー。
バイクのトコで待っててくれる?」
ニコリと微笑んだ。
「わかりました。」
「ごめんネー。」
なんの疑いもなく駐輪場に向かう日向の背中を見送ってから、由仁も踵を返す。
三段ほどの短い階段を上って。
廊下を曲がって。
柱の陰には…
ハイ。
昨夜ぶり、タニグチくん。
由仁が日向を先に行かせたのは 忘れ物をしたからなんかじゃない。
少し離れた場所から、タニグチくんが見ていたから。
今日は日向ではなく、物言いたげな目で由仁を見つめていたから。
やっぱ、ビンゴ。
フイと姿を消した彼は、ココで待っていた。
「俺になんか用」
「スミマセンデシタ!」