嗤うケダモノ
なんの奇跡だ、こりゃ。
冷静になって状況を把握しなきゃと思うのに、脳ミソが働いてくれない。
この役立たずが。
なのに、涙腺だけは休みなく働き続ける。
過労死すンぞ。
こんな情けない顔、見られたくない…
そんなキモチを知ってか知らずか、由仁は日向の頭を自分の胸に抱え寄せたまま、耳元で甘く囁いた。
「よかったー。
よろしくネ、ヒナ。」
「ハイ…」
あ、ヤバ。
返事しちゃったよ。
まだ涙が止まらないのに。
どーしよ、どーしよ…
「じゃあ、そゆコトで。
キスしよ?」
「ハイ… ハイ?」
日向は硬直した。
ついでに涙腺も活動をやめた。
ギギギと音を立てながら仰ぎ見ると、世にも妖艶な微笑み。
コレが、この男のペース。
わかりにくい優しさを隠した、本能のままに生きるケダモノのペース。
巻き込まれたら、もう最後。
それでも一応、無駄な抵抗を…
「ちょ、待っ… 先輩?!
ソレは性急っつーか、なんつーかぁぁぁぁぁ?!」