嗤うケダモノ

樹と百合が顔を見合わせる。


「…
じゃあ、なんの用?」


唇を指で触りながら黙って少女を見つめていた由仁が、やっと口を開いた。


「先輩、オカ研なンですよね?
相談に乗っていただきたいコトがあるンです。」


少女の相談事とは、男の気を引くための共通の話題作りだろうか。
そういう手段で由仁に近づこうとする女子もたくさんいた。

だが、少女の声に媚びるような甘さはない。
大きな黒い瞳は深く澄み、どこまでも揺るぎない。


「お忙しいようなので、今日は失礼します。
明日にでも、お時間作ってもらえませんか?」


「んーん、もー終わるから。
15分だけ待っててくンない?」


シャーペンを持ち直して言った由仁の言葉を聞いて、樹と百合は目を剥いた。

15分て…
アンタ、微積のプリント丸々一枚残ってませんデシタカ?

そんなにサクっと出来ンなら、始めっからサクっとやれや。


「じゃ、廊下で待ってます。」


開いた時と同じように静かに閉じられたドアを確認してから、由仁は目下の難問に視線を落とした。

樹と百合にギュウギュウ足を踏まれているが、全く気にならない。
なんだったらこんな課題、10分もかからない気がする。

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