嗤うケダモノ
でも、誰も教えてくれない。
自由に声が出せないのだから、聞くコトもできない。
日向は泣きたいキモチでいっぱいだったが、女は口元を手で覆ってまた笑った。
「馬鹿は生まれつきでおすものを。」
(あ。)
この独特の喋り方。
赤い着物。
布団が敷かれた狭い部屋。
(この人… 遊女なンだ…)
愕然とする日向の目に入ったのは、唇に添えられた女の指。
血の滲んだ白い布をグルグル巻いた、小指…
遊女にとって恋愛はご法度だ。
様々な理由で売られてきた彼女たちは、金で誰にでも身を任せなければならないから。
華やかで優艶だが、所詮は籠の鳥。
だが、いけないとわかっていても、止められないのが恋というもの。
密かに恋をした遊女たちは不変の愛の誓いとして『心中立て』をし、愛しい男に気持ちを伝えたのだという。
心中立てには色々な方法がある。
髪を切る、というお手軽なモノから、爪を剥がす、なんて聞いただけでもイタいモノまで。
中でも過激なのが『指切り』。
小指の第一関節から上を切り取って、相手に送るのだ。
ヤる方はもちろん、貰う方も拷問じゃねーかよ。