嗤うケダモノ



ん?

『イラっ』ってナンダ?

とにかく、痛みを堪えて女は笑った。
やっと会いに来た男に、何も聞かなかった。

ゆっくりゆっくり落ちていた毒は日増しに速度を上げていき、心に幾つもの波紋を作った。

五滴、六滴…


「もう諦めなんし。
この苦界じゃ、閨の睦言なんて信じるもんじゃありんせん。」


七滴、八滴、九滴…


「忘れなんし、忘れなんし。
花街は夢を売る処。
わちきらは夢の住み人。
現の男と結ばれることなどありんせん。」


あぁ、ちょっと黙ってて。

同僚たちが心配してくれているのはわかるけど。
忠告は全て尤もだけど。

黙ってて。

何も聞きたくない。
何も見たくない。

大丈夫、大丈夫。

待っている。
信じてる。

あの人だけを。

ズキズキ ズキズキ ズキズキ
イライラ イライラ イライラ

女の心が、日向の心が、毒に侵されていく。

そしてある夜。
目に映った光景に。

心は毒で満たされた。

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