嗤うケダモノ
恐る恐る視線を上げていく。
廓の狭い和室で化粧をする時、鏡に映っていた整った顔がソコにあった。
彼女だ。
同じ痛みを共有していた、あの女だ。
「あんた…
どうして男を殺して死ななかったんだい?」
抑揚もなく、女は日向に問い掛けた。
素に戻った喋り方。
くすんだ肌。
乱れた髪。
美しく着飾って恋人を待っていた女とは別人のよう。
疲れきったその様子が、日向の胸を締めつけた。
「どうして?
あんただって、不安に押し潰されそうだったんだろう?
だからここに来たんだろう?」
張りのない声で、女は問い続ける。
「ねぇ、どうして?
仲良く死んでしまえば、苦しみから解放されたのに。
楽になれたのに。」
楽に?
そんなハズないでショ?
憔悴しきった顔しちゃってさ。
日向は強い光を放つ瞳で真っ直ぐに女を見据えた。
「そんなの逃げてるだけだ。
私、わかったの。
真実を知るのが怖くて、逃げたンだよ。
私も、あなたも。」