嗤うケダモノ
「逃げた、だって?」
「そう。
だからあんなにイライラしたンだよ。」
勢いよく立ち上がりながら日向は言った。
「結婚すンの?って。
浮気してンの?って。
若旦那に聞けばよかったの。
茶屋にいたのだって、意外と商談とかだったのカモよ?
私だって、先輩に不安をブツければよかったの。」
「で?男に縋るってのかい?
みっともない女だね。」
冷たい目をした女が鼻で笑う。
だが日向は、女の嘲笑を跳ね返すように顎を反らした。
「みっともなくてナニが悪い。
カッコ悪いとか無様とか、そんなコト気にしてらンないよ。
だって、恋してンだもん。」
臆面もなく言い放った日向に、目を見張った女は…
ふ、と微笑んだ。
その優しい微笑に、今度は日向が目を見張る。
「…あんたの言う通りだねぇ。
本当はわちきもわかってた。」
乱れた髪を指で耳にかけながら 女は呟いた。
「あの人の本心も知らないまま あんなことして…
悔やんで。
寂しくて。
同じように寂しい女を引きずりこんで、仲間を増やして。
それでも寂しさは埋まらないんだよ…」