嗤うケダモノ
「あら…」
不意に女が視線を上げ、駒絽単衣の着物姿で階段に佇む由仁を見た。
「先生、息子さんですか?」
由仁を見据えたまま、杏子にそう訊ねる女。
え?えぇ、まぁ…などと、曖昧に頷く杏子。
杏子を『先生』と呼んでるってコトは、やっぱり彼女は仕事の依頼人。
だけど……
由仁の目が一瞬細く鋭くなる。
だが、それを隠すように軽く一礼して。
顔を上げた時には、いつもの妖艶な笑みを唇に浮かべていた。
「あらあらぁ。
男っぷりのいい息子さんですこと。
先生、よろしければ、息子さんも一緒にいらして下さいな。」
「いえ、そんなご迷惑は…」
「迷惑だなんて!
コッチがお願いしてるンですから。
さっきお話した件は、大部分がただの噂でしょうしね。
家族旅行気分で、是非。」
「でも…」
是非、是非、と些か強引に誘う女に応える杏子は、なんとも歯切れが悪い。
いつもの威勢の良さはどーした?
だが、ソレよりナニより…