嗤うケダモノ

「旅行?」


ピクリと片眉を上げた由仁が、小さな声で呟いた。

ハイ。
ソコ、やっぱ食いついちゃったか。

すると女は由仁を見上げ、さらに魅力的な提案を口にした。


「えぇ。
なんだったら、お友達もご招待しますよ。
山の幸と温泉だけが自慢の、田舎の宿ですケドねぇ。」


「温泉…」


おいおい?

お友達も一緒ってコトは、日向も一緒ってコトで。
ご招待ってコトは、バイト探しもナシってコトで。
温泉、尚且つ宿ってコトは、浴衣ってコトで…

おいおいおいおいぃぃぃ?!

イーンじゃねーのぉぉぉ?!

ビキニも捨て難いケド、湯上がりの浴衣もアリじゃねーのぉぉぉぉぉ?!

あぁ… 魅惑のバカンス…


「ジン。」


なにやら神妙な杏子の声が、妄想バカンスにトリップしていた由仁を現実に呼び戻した。

いつの間に帰ってったのか、女の姿は既にない。


「ナニー?
てか、温泉行こー☆」


まだ妄想に片足を突っ込んだまま杏子を見下ろした由仁は、夢見心地で微笑んだ。

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