嗤うケダモノ

そんな妙な噂が立ちはじめたのは、ごく最近のことだという。

切欠は、源翁庵が小さな宿屋だった頃から働いていた、支配人 後藤(ゴトウ)の自殺。

しばらく前から酔っ払っては

『俺のせいじゃない』
『俺は悪くない』
『俺は従っただけだ』

などと謎の発言を繰り返し、瞬く間に痩せ窶れ、遂には旅館の裏山で首を括ってしまった。

働きすぎだったのかも知れない。
だからノイローゼになったのかも知れない。

そう気に病んだ孝司郎と瑠璃子は、後藤の死後すぐ、謝罪と今後の生活の援助を申し出るために後藤の妻を訪ねたのだが…

既に妻は、後藤以上に狂っていた。

妻は焦点の合わない血走った目で二人を見た途端、

『来ないで! 来ないで!』
『やって来る! やって来る!』
『狐に呪われてる!
狐に呪われてる!
狐に呪われてる───!!』

と叫び、暴れ回った。

その際、妻が瑠璃子にケガをさせてしまったことから事が大きくなり、必要以上に噂が広まってしまったらしい。

『青沼家は狐に呪われている』
という、噂が。

だが杏子に会いに来た瑠璃子は、そんな噂など端から本気にしてはいないようだった。

バカバカしい。
非科学的。

だけど、噂が商売のジャマになると困る。

だから有名霊能者を呼んで、除霊パフォーマンスを打ってもらおう、と。

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