嗤うケダモノ
「アンタだったのか…
帰ってくれ。」
隣の客室で杏子の顔を見た途端、高年の男は吐き捨てるように言った。
仰天したのは瑠璃子だ。
「ナニ言ってるの?!
お客様になんてコトを…
それに、先生は例の件で…」
「あんなのはただの噂だ。
放っときゃすぐに消える。
旅館にだって影響はない!」
「今更ナニを!
あなただって、先生をお呼びするのに乗り気だったじゃない!」
なるほど。
会話の流れ的に、男は旅館の主であり瑠璃子の夫である、青沼孝司郎だったようだ。
あらら。
じゃコレ、夫婦ゲンカじゃん。
「とにかく、話は終わりだ。
インチキ霊能者に頼むことなどナニもナイ!」
「なっ?!
待って、あなた!! あなた!!」
瑠璃子の制止の声も聞かず、クルリと背を向けた孝司郎は荒々しく部屋を出て行った。
ハイ。
瑠璃子は顔面蒼白。
思い当たる節のある杏子は苦笑い。
日向はキョトーン。
由仁は興味なさゲに欠伸を一つした。