嗤うケダモノ

孝司郎が去ってから、瑠璃子は畳に手を着きっぱなし。
頭下げっぱなし。


「先生、申し訳ありません!
主人が大変失礼なことを…
本当に申し訳ありません!!」


いやぁ…

アナタが悪いワケじゃないと思うよ?


「いいンですよ、どうぞお気になさらず。
実は以前、随分ご迷惑をかけてしまったことがあって…
青沼さん、覚えておられたようですねェ。」


髪を掻き上げた杏子が、情けなさそうに眉を下げて言った。

ソレを聞いた瑠璃子が目を丸くする。


「まぁ…
先生は、主人とご面識がおありだったンですの?
でも主人は… 私が先生のお名前を出しても、ナニも申しませんでしたのに…」


「『覚えてた』ンじゃなくて、『思い出した』ンじゃなーい?
ついさっき、ナニカのキッカケで、とか?」


杏子や瑠璃子、そして日向のように座卓を囲まず、一人壁にもたれて座っていた由仁がノンビリと口を挟んだ。

とは言っても、会話に参加する気は0みたい?

立てた片膝の上に頬杖をついたしどけない格好で、窓の外に広がる山々を見つめたままだ。

ドコにいよーとナニしてよーと、マイペースっぷりは変わンないのね。

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