嗤うケダモノ
瀟洒な客室に落ちる、暫しの沈黙。
その静けさを破ったのは、由仁の気紛れな発言に続きはないと判断した杏子だった。
「ねェ、瑠璃子さん。
青沼さんがあぁ仰ってる以上、今回のお話はなかったことに」
「それは困ります!!」
ぅっわ。
即答。
しかも食いぎみ。
「主人は『旅館には影響ない』なんて申しておりましたが、そうではないンです。
もう… のっぴきならない事態になっているンです…」
座卓に身を乗り出した瑠璃子は、切実な表情で源翁庵の現状を訴えた。
誰が誰に語ったのか。
どういう経路で流れたのか。
『呪われた旅館発見!』などという書き込みが、インターネットのオカルトサイトにアップされてしまったらしい。
ご丁寧にも写真付きで。
旅館名や場所がわかるような情報は出ていないし、写真も肝心な部分は加工が施されていた。
だが、暇をもて余したマニアはドコにでもいるもの。
彼らは『呪われた旅館』の特定に動き出した。
結果、夜になるとわざわざ遠方から、カメラ持参でやってくる若者たちが出現し始めた。
しかも頻繁に。
旅館の敷地の周囲をウロウロ…