嗤うケダモノ
だって、なんも憑いてねーもん。
この旅館にも。
アンタらにも。
集団で暗示にかかっているダケだ。
だけど…
それは本当に自然発生した暗示なのだろうか。
確かにあの日、あの時、この地に九尾の狐はいた。
けれど九尾は由仁と同化し、この地を離れた。
それから18年も経った今、平穏だった集落に『狐に呪われてる』なんて言い出す奴が現れた。
ナニ? この今更感。
ナンデソーナッタ?
…誰かが糸を引いてンじゃね?
もしもその『誰か』がいるとするならば。
霊なんかじゃない。
生きている人間だ。
それも…
女が死んでいた川原に九尾が現れたことを、知っている人物かも知れない。
そして、女の遺体の行方を知っている人物かも知れない。
(今ならあの女を…
由仁の母親を、見つけてやれるかも…)
杏子は瞳に決意を漲らせ、唇を真一文字に結んだ。
「お引き受けしましょう。
でもその前に、霊査させていただきます。
呪いの源を突き止めなければ。」
サスガ杏子さん。
インチキ言っても、ソレっぽい。