嗤うケダモノ
って、そんなコト言わないでよ。
捜査は『地道に足を使って』ってのが、デフォでショ?
そんなワケで杏子・由仁・日向の三人は、瑠璃子の案内で母屋までの通路を歩いていた。
「足元が悪いので、お気をつけ下さい。
旅館を増築した関係で、以前はほとんど使ってなかった裏口からしか母屋に出入りできないンです。」
振り返った瑠璃子が、申し訳なさそうに頬に手を当てた。
そーでもナイヨーなんて、言ってあげたいケド…
無理デス、ハイ。
舗装どころか砂利すら敷いてなくて、雑草が生え放題だもん。
一列になってその細い道を抜けると、途端に華やかな光景が三人の視界を埋めた。
母屋の裏庭だったであろう場所にところ狭しと咲き乱れる、桃の花によく似た淡いピンクの…
「コレって…」
「夾竹桃です。」
目を見開いた日向の小さな呟きを耳にした瑠璃子が、眉尻を下げて苦笑混じりに答えた。
「私が嫁いできた頃は、雑草と一緒に野生の夾竹桃が少し生えている程度だったンですが…
その…
家の者が世話をしまして…」
瑠璃子の言葉が、どこか気まずそうに口の中に消える。
心を病んだ清司郎の存在を、あまり外部に漏らしたくないのかも知れない。