嗤うケダモノ
でもソレ、もう手遅れだから。
(コレかー…)
(コレっスねー…)
さっき年配の仲居に聞いた話を確認するように、由仁と日向は視線を交わして頷き合った。
雑草に紛れて咲いていたという、ささやかな夾竹桃。
それが今では我が物顔で咲き誇り、旅館の庭園で見た向日葵たちよりも日向の目を奪う。
『裏口をほとんど使っていなかった』
と言うのなら、ココは誰も見向きもしないような、寂しい場所だったに違いない。
そんな場所に、日々通って。
幾月も、幾年も通って。
花を咲かせ続けた清司郎は、どんなキモチでいたのだろう。
夾竹桃を好きだと言った人は、もういないのに。
帰ってこないのに。
そして、そんな清司郎に寄り添い続けた瑞穂は、どんなキモチでいたのだろう。
夾竹桃を好きだと言った人は、もういないのに。
今、傍にいるのは自分なのに。
なんつーか…
(切ないなぁ…)
感じた痛みに誘われるまま、日向は小さな手を胸に当てた。
そして、なんとなく縋るように隣に立つ由仁を見上げる。
彼はまた無表情だった。
美しいが物言わぬ、夾竹桃のようだった。