嗤うケダモノ
「間違いないよ。
アンタの母親は千鶴子だ。
でもって孝司郎は、千鶴子がああなった訳の一部を知ってる。」
「一部…なンですか?
全部じゃなくて?」
仕上げとばかりに綴織りの帯を締めはじめた杏子の背中に、眉根を寄せた日向が問い掛けた。
だってあのオッサン、見るからにアヤシかったじゃん。
スニーカー、隠そうとしてたし。
千鶴子サンに似てるらしい先輩の顔見て、やたら怯えてたし。
全部知ってンだろ。
てか、全部アイツの仕業だろ。
証拠はナニもナイケドネ?!
さらに深くなる眉間の皺。
険しい目付き。
思い切りひん曲げた口。
高まる不信感を抑えきれない日向は、自分でも知らず知らずのうちにトンデモナイ変顔になっていた。
耐えられなくなった由仁が、横を向いて肩を震わせる。
「ヒナ、顔、顔。」
「は? …ハっ!!///」
顔面の崩壊に気づいた日向が慌てて両手を頬に当て、スリスリするが…
完全に手遅れだって。
ウケる。
てか、可愛すぎる。
「一部、だよ。
あのオッサン、狐の話には反応薄かったし。」
なんとか笑いを堪えた由仁が言った。