嗤うケダモノ
軽く襟元を整えた杏子が振り返る。
「あぁ、行くよ、あえて。」
(いやいや…
あえて、行っても…)
さも当然と胸を張る杏子を、日向は不安げに見上げた。
「本当に会えないンじゃないですか?
その… そーゆー病院って、親族でも面会できないコトもあるって聞きますし。
そもそも、あのオッサン、入院先なんて教えてくれないンじゃ…」
「この辺りで閉鎖病棟がある病院なんざ、数が知れてる。
居場所はすぐに割れるよ。
そして…」
杏子がしなやかな手を腰に当てた。
高慢に顎を反らして。
不敵に口角を持ち上げて…
「総理大臣だろうと日銀総裁だろうと、この久我杏子サマが会えない人間なんて、日本にゃいないのさっっっ」
「か… かかかカッケー…」
自信満々で言い放った杏子を、胸の前で両手の指を組んだ日向が憧憬の眼差しで見つめた。
まじカッケーよ。
抱かれてもイイよ。
姐サ─────ン!
あら、そうかい?なんて、杏子も満更ではない様子。
由仁は突き出した唇をさらに指で引っ張りながら、目を輝かせる日向と頬を緩ませる杏子を半眼で眺めた。