嗤うケダモノ
「あのオッサンがナンカしでかすかも知れないから、先輩、私を帰そうとしてるンでショ?
なら、イヤですケド。」
澄みきった瞳で由仁を見つめ、日向は言った。
そう。
彼女の言う通り。
ドコからともなく現れたスニーカーが決定打となり、孝司郎はかなり追い詰められた様子だった。
千鶴子が死んだ経緯に孝司郎が関係するのなら、彼はかなりトンデモナイコトをヤらかす可能性のある、危険人物だ。
ひょっとしたら、今度だって…
『イヤですケド』なんて言ってる場合じゃねーだろ、コレ。
もしものコトがあったら、日向は完全にとばっちりだろ、コレ。
大事な人を巻き込むワケにはいかねーだろが。
なのに…
「ヒナ。
わかってるなら」
「黙りやがってクダサイ。」
意識的にコワい顔を作った由仁の言い分を、もっとコワい顔をした日向がピシャリと遮った。
「オッサンの顔、見ましたか?
一番危ないのは先輩ですよ?
先輩、アキんチで言いましたよネ?
ヒナ置いて逃げるワケねーじゃんって。
私だって同じです。
先輩置いて逃げるワケねーンですよ!」
真っ直ぐに由仁を睨みつけ、低く鋭く、日向は言い切った。