嗤うケダモノ
胡座をかいた格好でフヨフヨと浮かんでいる空狐。
錠がかかった座敷牢の扉。
その二つを見比べた杏子は…
「中にいるンだろ?
アンタが閉じ込めたのかい?」
穏やかとも言える、低い声を放った。
それに対し、空狐もまた穏やかに返す。
「いやいや。
やったのは孝司郎っつージジィじゃ。
二人とも、元気にしとるよ。」
「ノンキだねェ。
早く開けてやってよ。」
「鍵を壊してかの?
杏子ちゃん、年寄りはもっと労らんと。」
「はぁ…
役に立たないジジィだよ。」
いつもと変わらない二人の表情。
いつもと変わらない二人の軽口。
だが、二人の間の空気がゆっくりと張りつめていく…
「じゃあ、私が開けてやろうかね。
フロントでボルトクリッパーでも借りて」
「のぅ、杏子ちゃん。」
杏子の声を、空狐が遮った。
そして、長い顎髭を撫でながら振り返る。
杏子がココにやってきて、今、初めて二人の視線が絡んだ。