嗤うケダモノ
「儂がどうして由仁の傍を離れんのか…
杏子ちゃんは知っとるかの?」
「…
ジンが手にしたチカラに溺れて暴走した時、そのチカラごとジンを葬り去るため、だろ?」
「…
やっぱり知っとったか。
親子揃って食えん奴らじゃ。カッカッカッ」
やはり、いつもと少しも変わらない空狐独特の笑い方。
だが、その言葉の内容は笑い事ではなかった。
ソレは実質、神による死刑宣告だった。
由仁はおおらかな人間だ。
ただのめんどくさがりとも言うが。
だから、金や権力にはこれっぽっちも執着がナイ。
誰かを蹴落としてでも上に立とうとする野望もナイ。
寛容で、恬淡で、平和主義。
そんなコトは空狐だって知っている。
けれど、由仁には別の一面があるコトも、空狐は知っている。
彼は日向が秘密箱に囚われた時、人目も気にせずチカラを解放した。
そしてなんの躊躇いもなく、チカラを奮おうとした。
大切な者のためなら、いとも簡単に狂うことができるのだ、由仁という男は。
その危うさは、まさに薄氷を履むが如し。
だから、試すのだ。
今。
ココで。
由仁を。