嗤うケダモノ

「この中にはの、由仁の大切な者の大切な秘密が眠っておったよ。」


「はぁ? アンタ、見たのかい?
一人で勝手に入って?」


「儂を誰じゃと思っとる。
ドコでも出入り自由じゃぞ。」


呆れて腕を組む杏子に、空狐は微笑む。
やけに寂しげに、微笑む。


「ソレを見つけたアヤツが怒りに我を忘れ、その扉を破壊して出て来おったら…」


「…」


「杏子ちゃん…
儂を許してくれんかの?」


許す?
ナニを?

…由仁を殺すことを?

そんなの…


「許さないよ。」


腕を組んだまま顎を反らした杏子が、挑発的に口角を上げた。


「そもそも、許す必要がないンだよ。
ウチのジンはそんなにバカじゃない。
だから、アンタがジンを殺す必要も」


ミシッ

杏子の声は、ドコかから聞こえた木が軋む音で途絶えた。

母屋全体が揺れる。
低い天井から埃が降ってくる。

そして…

バキバキッ バキッ
ド─────ン!!

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