嗤うケダモノ
由仁が投げかけた質問に軽く頷いた杏子が、瑠璃子の足にしがみつく孝司郎に歩み寄る。
目線の高さが同じになるようにしゃがみこみ、優しく肩に手をかけて…
「全部聞きましたよ、孝司郎さん…
アンタ、罪のない女を1ヶ月も監禁して、逃げ出した女を結果的に死なせちまって、遺体を山に埋めて、ナニもなかったコトにしたンだってね、この人でなしが。」
これっぽっちも優しくない言葉を吐いた。
だが、致し方ナシ。
杏子が言ったコトが事実なら、その行為はまさに人でなしだ。
けれど孝司郎は、保身のための抵抗を試みる。
「違う!
そんなつもりはなかったンだ!
ただ… あの女が強情で…
俺は清司郎のために…」
「うん、うん。
千鶴子は大人だから態度に出さなかっただけで、彼女と清司郎はデキてたンだってね。
で、別れを迫って断られて、監禁したンだってね。
か弱い女だから、泣いて怖がって、すぐに折れると思ってたンだってね、クソヤローが。」
「違うンだ… 違うンだ…
ちゃんと帰すつもりだったンだ…
死なせる気なんて…」
「うん、うん。
二、三日で全て終わるつもりで、後藤さんの奥さんに世話を命じたンだってね。
思いの外千鶴子が頑張るから、慌てて脅しつけて、退職願やらを書かせたンだってね。
逃げた千鶴子の追跡も、崖から落ちて死んだ千鶴子の遺体の始末も、後藤さんに丸投げしたンだってね、もー死ねよ。」