嗤うケダモノ
「…
ソレは… 本当かい?
後藤も、後藤の奥さんも、千鶴子が妊娠しているコトは知らなかったみたいだよ。」
固く目を閉じ、必死で殺意を押し込める。
だが押し込めきれずに、杏子は低く呻いた。
「ほんと、ほんと。
座敷牢に千鶴子サンのメッセージが残ってたの。
本人も、ココに監禁されてから妊娠に気づいたみたいー。」
「…」
「ソレを、このオッサンにも気づかれちゃったンだろーネー。
でも、オッサンは誰にも言えなかった。
本人の同意もなく堕胎させよーとしてるコトを他人に知られちゃ、いくら長様(笑)でもサスガに具合悪いっショー。」
「…
…
‥‥‥」
…
なんつーか、さー…
軽いの。
いつも通り、緊張感の欠片もねェの。
君のコトだよ、由仁クン。
穏やかな話し方に、心がほどけていく。
そうだね。
『殺してやりたい』だなんて…
この人間のクズと同じ土俵に立っちゃダメだ。
それに、『子を望めない』だなんて…
なんてバカなコトを考えたンだろう。