嗤うケダモノ
(私には、由仁がいるのに。)
瞼を上げた杏子は、幸せな気持ちで由仁を見た。
彼も、杏子を見ていた。
艶やかに微笑みながら。
だが、目と目で交わすあたたかな親子の対話はココまで。
先にコッチを片付けなきゃ、ね。
「それにしても…
なんで千鶴子は、腹の子が殺されそうなコトを知ってたンだい?
このクズが予告するわきゃナイだろ?」
「んー… コレは推測だケド。
千鶴子サンが、毎日夾竹桃を眺めてたからだと思うヨー。」
「…わかるように言ってよ。」
「あのねー、夾竹桃って、花も葉っぱも根っこも…とにかく全部、毒なの。
千鶴子サンも知ってたと思う。
で、原産地のインドじゃ、昔…」
「まさか…
堕胎に使われてた…?」
「そー、そのまさか。
あの裏庭って、千鶴子サンと清司郎サンがコッソリ会ってた場所なンじゃない?
昔は誰も寄りつかなかったらしいし?
そんなトコロに、突然このオッサンが現れて。
その上、夾竹桃をむしってンのを見ちゃったら…」
「あー…
察するに余りあるね…」
肩を竦めた杏子が、蹲る孝司郎を見た。
いや、その場にいる全員が、孝司郎を見た。