嗤うケダモノ


池脇 瑠璃子
川村 千鶴子

名字が違うのは、姉妹が幼い頃に両親が離婚したからだ。

姉の瑠璃子は父親に、三才年下の千鶴子は母親に引き取られ、それぞれ別の場所で暮らしていた。

父親は変にプライドが高く、よく対人トラブルを起こし、それが原因で頻繁に仕事を変える男だった。

当然、生活は苦しい。

服は誰かのおさがりばかりだったし、お小遣いだって満足に貰えなかった。

瑠璃子には、それが辛かった。
友人と比べてみすぼらしい自分が惨めだった。

だから瑠璃子は、いつしか父親を憎んだ。
自分を父親の元に残した母親を憎んだ。

そして、母親と暮らす千鶴子を妬んだ。

それでも小学生の時には、千鶴子と近況報告を手紙でやり取りしていた。

だがそれも、徐々に苦痛になってくる。

手紙が届く。

返事が遅れる。

手紙が届く。

返事を書かない。

手紙が届く…

もう、読みもしなくなった。

破り捨てはしなかったが、封も切らずに机の奥に仕舞った。

けれど、瑠璃子に宛てた千鶴子の手紙は定期的に届いた。

それは瑠璃子が高校を卒業するまで、ずっと続いた。

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