嗤うケダモノ
拾
池脇 瑠璃子
川村 千鶴子
名字が違うのは、姉妹が幼い頃に両親が離婚したからだ。
姉の瑠璃子は父親に、三才年下の千鶴子は母親に引き取られ、それぞれ別の場所で暮らしていた。
父親は変にプライドが高く、よく対人トラブルを起こし、それが原因で頻繁に仕事を変える男だった。
当然、生活は苦しい。
服は誰かのおさがりばかりだったし、お小遣いだって満足に貰えなかった。
瑠璃子には、それが辛かった。
友人と比べてみすぼらしい自分が惨めだった。
だから瑠璃子は、いつしか父親を憎んだ。
自分を父親の元に残した母親を憎んだ。
そして、母親と暮らす千鶴子を妬んだ。
それでも小学生の時には、千鶴子と近況報告を手紙でやり取りしていた。
だがそれも、徐々に苦痛になってくる。
手紙が届く。
返事が遅れる。
手紙が届く。
返事を書かない。
手紙が届く…
もう、読みもしなくなった。
破り捨てはしなかったが、封も切らずに机の奥に仕舞った。
けれど、瑠璃子に宛てた千鶴子の手紙は定期的に届いた。
それは瑠璃子が高校を卒業するまで、ずっと続いた。