嗤うケダモノ

後藤は、瑠璃子が集落に来る前からの孝司郎の右腕だ。

その彼が、懸命に隠すモノとは…

瑠璃子はカマをかけてみることにした。

あくまで、後でなんとでも誤魔化せるカタチで。

後藤が行きたがらない一角を指差して…


『ねェ、後藤さん?
さっきアソコから後藤さんを見ていた若い女性は、お知り合いなの?』


そう。
あくまで、何気なく、自然に。

だがその一言で、後藤は瑠璃子が予想もしなかった過剰な反応を見せた。

震えながらその場に崩れ落ち、涙に潤む目で瑠璃子を見上げ、そして訊ねたのだ。


『どんな女性ですか?
今もコッチを見ていますか?
もう消えましたか?』




消えた、て…

ソレ、フツーの人間に対して使う表現じゃなくね?

今まで、何度も心に浮かんでは必死で打ち消してきた可能性が、瞬く間に膨らんでいく。

もう… 千鶴子は…

蒼白になった瑠璃子を見上げてナニを勘違いしたのか、後藤はとうとう声を放って泣き出した。

泣きながら
『川村さん、ごめんなさい』
『川村さん、許してください』
『俺は命じられただけなんだ』
と、地面に額を擦りつけて…

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