嗤うケダモノ
千鶴子は死んだのだ。
千鶴子は殺されたのだ。
後藤と、後藤にナニカを『命じる』コトの出来る人物…即ち、青沼孝司郎によって。
どうしてなの?
あのコがナニをしたって言うの?
瑠璃子は、土下座スタイルで泣き続ける後藤の隣に膝を落とした。
震える肩にそっと手をかけ、殊更に優しい声で訊ねる。
『どうしたというの、後藤さん。
一人で苦しまないで、私に話してちょうだい。』
『瑠璃子さん…』
涙に濡れた顔を上げた後藤は、恐怖と罪の重さに耐えきれず、堰を切ったように話し始めた。
目の前にいる、自らが忠誠を誓ったもう一人の主が、燃え上がる怒りを押し殺していることも知らずに…
『清司郎との別れを承諾しない千鶴子を、座敷牢に閉じ込めた』
『しばらくすれば根をあげる』
『それまで千鶴子の世話をしろ』
そろそろ梅雨が明けようという蒸し暑いある日、孝司郎が突然後藤に告げたという。
後藤は驚いた。
だって、ソレは犯罪だ。
けれど従うしかなかった。
だって、孝司郎は長様だ。
後藤は妻と協力し、誰にも知られないよう、座敷牢に食べ物や衣類を運んだりした。
孝司郎の思惑に反し、千鶴子は根をあげたりはしなかった。
逆に
『こんなコトで、人の気持ちは変わりません』
と、孝司郎や後藤を説得しようとした。