嗤うケダモノ
だが、崖の下を覗き込んだ後藤が目にしたモノは…
天を仰いで横たわる千鶴子。
その頭の下の、突き出た石。
そして、ソコからジワリと広がりつつある血溜まり…
後藤は一目散にその場を逃げ出した。
走って、走って、金物屋の前にある公衆電話に縋りついた。
どうすればイイのかわからない。
一人じゃナニも決められない。
長様、長様、長様長様長様長様…
震える声で事情を語る後藤に、受話器の向こうの孝司郎は非情極まりない命令を下した。
『確かに死んだのか?』
『見てたヤツはいないな?』
『なら、山にでも埋めろ』
『血は小川の水で洗い流せ』
サスガにそりゃねーだろ。
ムリムリムリムリ、絶対ムリ!
後藤は泣いた。
それでも暴君は言い募る。
『警察沙汰になると困るだろう?』
『あの女には肉親がいない』
『行方不明になっても、誰も捜さない』
『ヤるんだ』
そして…
『もうこの話は終わりだ』
あぁ…
終わらせるしかないンだ。
従うしかないンだ。
ダッテ、孝司郎ハ長様ダ…
電話を切った後藤は、ボロボロと涙を零しながら千鶴子が待つ崖に戻った。
だけど…
後藤を待っていたのは、千鶴子だけではなかった。