嗤うケダモノ
状況がサッパリ飲み込めず茫然としていると、化け狐が光の玉になって、またもや茫然。
直後、光の玉が生まれたての赤子に変わって、さらに茫然。
後藤が、茫然とするばかりでナニ一つ出来ずに佇んでいる間に、知らない女は赤子になった化け狐を抱えて小川を渡っていった。
川原に残ったのは千鶴子だけ。
ヨロヨロと隠れていた木陰から出て、オタオタと崖を降りる。
真っ白になった頭を占めるのは、コレだけ。
長様の言いつけを守らなければ。
上着を脱いで千鶴子をくるんで。
小川の水で丁寧に血痕を流して。
千鶴子を肩に担いで、崖をよじ登って…
後藤は覚束ない足取りで山に分け入った。
千鶴子を山に埋めてからのコトは、よく覚えていない。
気づいたら家の玄関にボーっと立っていた。
二、三日は、仕事にも行かなかった。
何事かと問い質す妻にポツリポツリと事情を話すうちに、恐怖と罪悪感が後藤を襲った。
なんてコトをしたンだ。
なんて酷いコトを。
なんて恐ろしいコトを。
いや、恐ろしいのはあの狐。
千鶴子の『お願い』は、きっと復讐に違いない。
今にあの化け狐が、赤子になった化け狐が、腹を裂きにやって来る。
溢れた臓物を喰らいに来る。
許しを乞うべき者はもういない。
相談できる者もまた。
『もうこの話は終わり』なのだから。
後藤と妻は、震えながら眠れぬ夜をすごすしかなかった。