嗤うケダモノ
「あー…
そりゃ、アレでショー。」
訳知り顔で瑠璃子に頷きかけた由仁は、杏子を見た。
「間違いなく、アレだね。」
訳知り顔で頷いた杏子は、日向を見た。
「アレしかナイっスね。」
訳知り顔で頷いた日向は、瑠璃子を…
って、一周回って返ってきたよ。
「なんなのよ!アレって!
勝手に納得してンじゃないわよ!」
返ってきたところでナニ一つ理解できなかった瑠璃子は、足を踏み鳴らして怒鳴った。
あらら。
ずいぶんご立腹デスネ。
隣に座り込んでる脱け殻まで、ビクってしてたよ?
癇癪がヒドくなる前に、教えたげてー。
「千鶴子は、妊娠に気づいてすぐに亡くなったワケだろ?
なら腹の子は、やっと人のカタチになったばかりの胎児だったはずだ。
でもねェ…
私が出逢ったジンは、赤ん坊だったよ。」
懐かしむように目を細めた杏子が、ゆっくりと言葉を紡いだ。
優しい声で。
だが、どこか悲しい声で。
「もうわかるだろ?
千鶴子の願いは復讐なんかじゃない。
我が子を生かすコトだったンだ。」