嗤うケダモノ
由仁に聞こえていたモノは徐々に大きくなり、清司郎の耳にも届いた。
声だ。
「…司郎さーん…」
清司郎を呼ぶ、瑞穂の声だ。
由仁が微笑む。
世にも妖しく。
だが、限りなく優しく。
「イイ加減、気づけばー?
君を支えてくれる人は、もういるでショ?」
それを聞いた清司郎は、もう一度、大きく頷いた。
その拍子に、大粒の涙が零れ落ちる。
…
コイツ、ほんとに大丈夫?
喚いてるか、トチ狂ってるか、泣いてるかじゃね?
知る限り、だケド。
仕方なさそうに肩を竦めた由仁は、骨ばった大きな手で清司郎の頭を撫でた。
コレ、逆だヨネー、なんてボヤきながら。
「旅館、ツブさないでヨネー?
なんだったら、露天風呂付きの客室なんか、作っといてヨネー?
いつかまた、ヒナと遊びに来るから。
そん時には、笑って会えるでショ?
‥‥‥オトーサン?」
「え…」
清司郎が勢いよく顔を上げた時にはもう、由仁は背中を見せて歩き始めていた。