嗤うケダモノ
18年前とは違う舗装された道路の端に行き、18年前にはなかったガードレールをひょいと跨ぐ。
18年前と変わらない低い崖を軽々と飛び降りて、18年前と変わらない川原に仰向きに寝転がって。
ゴツゴツと尖った石で背中が痛むが、この際、気にしない。
夏空の吸い込まれそうな青と、浮かぶ雲の目映い白を目に焼きつけてから、由仁はゆっくりと長い睫毛を伏せた。
この景色も、18年前と変わらないのだろうか。
会ったこともない、これから先も決して会うことのないその人は、どんなキモチでこの空を眺めたのだろうか。
辛くなかったはずはない。
悲しくなかったはずはない。
それでも、大好きな人たちの幸せを信じて眠ったというその人は、この空にどんな未来を見たのだろう…
「千鶴子さん、きっと今頃ドヤ顔してンでしょーね。」
「へ?」
聞こえてきた声に、由仁は瞼を上げた。
瞳に映ったのは、日向。
ラピュタを内蔵してそうな雲をバックに、微笑みながら見下ろしてくる愛しのバニーちゃん。
待っててって言ったのに、降りて来ちゃったのね。
なんつーか、そーゆーの‥‥‥‥‥嬉しい。
「どーしてそー思うのー?」
由仁は寝転がったまま、眩しそうに目を細めて訊ねた。