嗤うケダモノ
由仁はいつも、空狐を『ジーチャン』と呼ぶ。
だが今の『ジーチャン』は、果たしていつもの『ジーチャン』なのか。
ひょっとしたら、『赤ちゃん』の‥‥‥
空狐は、さっきの打ち明け話を由仁にはしていないようだった。
なのに、いったいナニを知っているンだろう。
ドコまで知っているンだろう。
『狐につままれたよう』
まさにそんなカンジ。
ワケがわからない。
本当に読めない。
全てを見透かしたかのように、そしてその全てが掌の上だとでもいうように、悠然と嗤うこの男だけは…
「じゃ、ジーチャンの期待に応えなきゃネー。
部屋に戻って、子作りの予行演習しよー☆」
ますます妖しく微笑んだ由仁が、日向の肩に手を伸ばす。
だが日向は素早く身を躱し、グラスが乗ったトレーをその手に押しつけた。
本当は、彼の手は大きくてあたたかくて、心地好い。
身も心も委ねてしまいたいと思えるほど。
でも、ね?
いつもいつも、彼の意のままに掌で転がされるのは癪だから。
日向は瞳に力を込めて、由仁を睨み上げる。
「ナニをホザいてやがりマスカ。
参考書、買いに行くンでしょ?」