嗤うケダモノ
脳内にパラベンを撒いてなんとか気を取り直した日向が、口元を拭うフリをして由仁から目を逸らした。
「先輩、なんで着物なんか?」
「家じゃ、いつもこんなカンジだよー?
俺、襟元が詰まったカッコ、好きじゃないンだヨネー。」
あー…
それで学ランの胸元も、ガバーっと開いてンのね。
迷惑な話だよ。
日向がこっそり溜め息を吐いていると、唇を妖しく歪めた由仁が傍に寄ってきた。
近いよ。
なるべく視界に入ンないでくンない?
「…ナンスカ?」
日向が硬い表情で見上げると、由仁はますます妖艶に笑う。
「ん? 座るの。
ヒナの隣に。」
「ハイ?」
いやいや?
オカシィだろ。
座卓を挟んで向かい合うのが、客間スタイルだろ。
畳に手と膝を着いてにじり寄る由仁から逃れるべく、頬を引きつらせた日向が後退った時…
「このドアホ。
トコロ構わずサカってンじゃないよ。」
由仁の頭にゲンコツが落ちた。