嗤うケダモノ
だが由仁は、跳ねた毛先を遊ばせるように頭をフルフルと振った。
「ソレねー、危ないの。
下手したら、もっと厄介なコトになンの。」
「厄介って?」
「例えばさー、変な宗教にハマった人って、周りが止めようとすればするほど意固地になったりするでショ?
アレと一緒。」
「つまり…
『自己暗示だよ』って言えば言うほど、憑かれてるって思い込んじゃうってコトですか…?」
「そのとーり。」
由仁の声が少し低くなったからだろうか。
それとも、完全に日が落ちて気温が下がったからだろうか。
背筋を走った寒気に、日向は身震いした。
「誰もわかってくれないとか言って、周囲の人を遠ざける。
孤独が暗示を増幅させる。
負のスパイラルだよね。
そうなると手がつけられない。
見えないハズのモノを見たり、聞こえないハズの声を聞いたりするような、精神のヤマイに発展しちゃうワケ。」
「…」
俯き、黙り込んだ日向に、由仁はそっと手を伸ばす。
そして座卓越しに手触りのいい彼女の黒髪を撫で、穏やかに囁いた。
「大丈夫、もう大丈夫…」