嗤うケダモノ
春に入学してきた日向を見つけた時から、あの夜の少女だと気づいていたと、彼は言った。
気になって、事ある毎に目で追ううちに、名前もクラスも知ったと、彼は言った。
なら、どうして…
「ごめんね?
知らんぷりしてて。」
日向が疑問を口にする前に、柔らかく微笑んだ由仁が答えを出した。
「ヒナが忘れてるなら、そのほうがいいと思ったンだ。
女のコにとって、あんまりイイ思い出じゃないでショ?」
(そうか…)
あの夜彼が見た私は、レイプされかけていたから。
いやいや…
アンタがあまりにも衝撃的すぎて、すっかり忘れてマシタケドネ?!
いずれ捕獲するつもりでいたケドさー、なんておどけてみせる由仁を、日向は真っ直ぐに見上げた。
また一つ、彼を知る。
「私こそ、知らんぷりしててごめんなさい。」
日向はもう一度、深々と頭を垂れた。
「重ね重ね、ありがとうございました。
あの時は失礼なコト言ってしまって、本当にスミマセ」
「いーから。
忘れちゃったの?
貸し借りはナシ、でショ?」