ナムストーンPART1

英雄ナセル

ナムストーンと念じながらナセルは煙に
くすぶるバスの車内に入った。
かなりの人数が折り重なって倒れている。

何人か外の男たちを呼び込んだ。
手前から一人ずつ担ぎ出す。虫の息だ。
遠くでサイレンの音が聞こえる。

入り口付近のドアと窓とは大きく破損している。
数人の死体を避けて次々と負傷者を担ぎ出した。
車内は煙にむせて息ができない。

ようやく救急車と消防車が到着した。
マスコミも押しかけてきた。
ナセルは車に戻り運転席で大きく深呼吸をした。

警察が犯人の目撃者はいないかとあちこち声をかけている。
警察がナセルの車の扉を開けた。同時にフラッシュがたかれた。

「犯人を目撃されませんでしたか?」
「ああ、目撃した。子供が叫びながら背中に何かしょって突っ込んできた」
「詳しくお話を聞かせてください。お疲れでしょうが協力お願いします」

ナセルは起き上がって車から出た。
たくさんのフラッシュがたかれる。
群衆がナセル、ナセルと叫んでいる。

ナセルが負傷者を助け出したとか、
炎の中をバスに乗り込んで担ぎ出したとか言っている。
こうしてカイロのテロ事件は大きく世界に報道された。

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