ナムストーンPART1

大洪水4

「ナムストーン、ナムストーンナムストーン!」
思わずナムストーンが口をついて出た。

脂汗がにじみ出る。慎重にハンドルを握って加速する。
あと十数キロでマインツだ。高い絶壁が両岸に続き
川幅は狭くなる。激流が空を飛ぶ。

土嚢も飛び越えて雨と水しぶきとでワイパーは全開。
土嚢がガードレールの目印だ。完全に水の中を走っている。

一瞬のきりそこないでたぶん即死だろう。緊張で
冷や汗がからだ全体を覆う。ナムストーンを叫ぶ。

流木が増えてきた。たまにある橋に木が絡まって河岸の
道路に流れが分流する。洪水の道路を慎重に土嚢を目印に
走り抜ける。ナムストーン!頑張れもう少しだ。

峠を切り抜けやっと視界が開けてきた。マインツだ。
川幅が広がり流れも緩やかになってきた。

『助かった!』
キーツは大きく息を吸った。

東へ向かえばマインツ市外からフランクフルトだ。
ここからラインの本流と分かれてマイン川沿いに走る。

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