【完】白衣とお菓子といたずらと
ここからいい雰囲気になるかと思っていたけれど、それは間違いだったらしい。


もぞもぞと動き出した彼女は、俺の腕の中から抜け出してしまった。


離れていった温もりを寂しいと思い、一瞬手を伸ばして捕まえようとしたけれど、やっぱりやめた。


そんな俺の葛藤に彼女は気づいていない。


「家に連絡していいですか?今日は帰らないって」


「うん、連絡しといでよ。心配かけないようねに」


本気でここに留まってくれるらしい。彼女のお父さんには申し訳ないけど、俺は凄く嬉しい。


俺から了承を得た彼女は、早速携帯を手に取り、どこかへ電話を始めた。きっと父親だろう。他は家に居ないといっていたから。


……って、ここで電話するのか?てっきり、別の場所でこっそりかけるものかと思っていた。


彼女の耳元にある携帯からは、すぐ傍にいるせいか俺にまで機械的な呼び出し音が聞こえてくる。






「――もしもし?あ、お父さん」


本当に父親に連絡しているらしい。この電話の向こうに彼女の父親がいると思うと、急に緊張してきて、無駄に背筋がピンと伸びる。


俺がしゃべってしまうとまずいだろうと思い、音を立てないように、声を出さないように細心の注意を払った。
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