【完】白衣とお菓子といたずらと
「美沙はサプライズ嫌いって言ってたよね?」


確か、リハビリしてもらっていた時の、雑談の中でそんな事を言っていた気がする。


まだ付き合ってもなかったのに、その言葉は覚えてなきゃと思った記憶がある。


よくよく考えると、あの頃からこうなればいいって思って、彼女の情報を集めてたんだよな。


「……?」


俺の質問に彼女は首を傾げている。サプライズが何を意味しているのか、伝わっていないらしい。そりゃそうだよな、自分の頭の中でだけ処理してちゃんと伝えていないんだから。


「ごめん、ごめん。指輪だよ、婚約指輪。身に付けるものは自分で選びたいって、言ってなかった?」


今度こそ伝わったみたいだ。けれど、予想と違って彼女の表情は渋いものだった。俺が選んでおくべきだった?


「婚約指輪なんて必要ないよ。それよりも結婚がちゃんと決まった時に、2人で選びにいけばいいよ……ごめん、本当は喜ぶべきところなのに」


普段の彼女の言動と、今の言葉で、言いたい事が分かった。


結婚指輪は結婚後も付けておくことが多いけれど、婚約指輪は違う。どちらかというと記念品みたいになってしまうからな。昔から家計のやりくりをしていたらしい彼女はすごく現実的な考えの持ち主で、夢見るタイプではない。だから、どうせ使わなくなるものにお金は掛けたくないとか、そういう考えなんだろうな。


彼女の言いたい事は分かった。けれど、それでは俺が納得いかない。


今彼女に指輪を渡したい理由は、嵌めていてほしいのは、形式的な義務感じゃないのに。


「……要らないっていうのはダメ。美沙は俺のだっていう証になるでしょ?だから、指輪は受け取って欲しいんだよ」


病院内だけじゃない。人の目を惹く容姿をしている彼女だ、俺に言ったりはしないけど、きっと声を掛けられたりもあるはずだ。


仕事柄どうしても時間的なすれ違いが多くなってしまう。だから彼女は俺のモノだって主張したいだけ。不安に思っている俺のわがままなんだ。


「そういう理由なら……喜んで」


今度こそ彼女の表情がパッと明るくなった。
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