【完】白衣とお菓子といたずらと
「礼央さんに反対されると思って。実はね、私大好きなアーティストさんがいるの」


予想してない答えに、何と応えればいいのか分からない。

……は?何でここでアーティストの話になるんだろうか。


「昨日はね、そのアーティストさんのディナーショーがあったの」


「……え?ディナーショー?」


なすます意味が分からない。


「うん、今年こそ行こうって決意して夏からチケット取ってたの。普段もライブのためだけに全国どこにでも行くんだけど、そういうの嫌う人も居るから……もし礼央さんに止められたら、泣く泣く我慢してたいと思う。けど、ずっと後悔しそうだったの。そして礼央さんのせいにしてしまう気がして、それが嫌だったの」


早口で彼女は一通り喋ると、はぁーっと長い息を吐いて、少し冷めてきたであろうカフェオレをごくごくと一気に流し込んだ。


「礼央さんが嫌なら今後は行かない。その覚悟で今回行ってきたから」


もう決めたんだと、しっかりと俺の目を見て言ってくれた。


「俺はさ、何も言ってくれない方が嫌かな。俺ってそんなに信用ない?美沙の好きなことを干渉するような男だと思ってた?」


そう思われていたなら、ただただ悲しい。


全国廻るくらいに好きな人たちがいて、それほど美沙の中では大きなものがあるのに、それを捨てさせるとでも?


「……そんな事、俺はしないよ」


「信じきれなくてごめんなさい。黙っていてごめんなさい」


ごめん、と何度も呟きながら、彼女はゆっくりと俺の首に手を回ししがみつく様に抱きついてきた。
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