【完】白衣とお菓子といたずらと
「で?あんたは怪我ない?」


……忘れていた。


姪っ子の事で頭がいっぱいになり、自分が感じた強い痛みのことは忘れていた。


んー、これは……


「姉ちゃん、病院まで連れて行って。
これダメだ」


これと言って、自分の左足関節周囲を指差した。


自分の体のことは自分が良くわかる。確実に大丈夫ではない。


「痛むの?」


「んー、激痛。足つけられない感じ。
たぶん、靭帯か骨やっちゃってるかな」


苦笑しながら伝えると、姉ちゃんの顔面からまた血の気が引いた。


ころころ変わる顔色に、忙しいなと呑気に考えた。


そして、そんな俺の様子が気に食わなかったらしい。


今度は怒りの表情が見て取れた。


「早く言いなさいよ!急いで病院行くわよ!」


そう怒鳴ったかと思うと、子どもを抱えたまま、急いで車を出すべく玄関のほうへと向かって行った。





たぶん、靭帯切ったか骨折していると俺は思う。


俺のこと急かさないで、車まで行くのを手伝って貰ったほうがありがたいんだけどな。


「まぁ、いいか。ぼちぼち行きますか」


俺の声は誰も居なくなった家で、誰にも届くことなく虚しく響いた。


あれほどまでに取り乱している姉ちゃんに、そんな事まで求めるのは酷な事だと思い、壁を伝い、片足で跳びながら玄関を目指した。
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