【完】白衣とお菓子といたずらと
「いらっしゃい」
「お待たせ。迎えありがとう」
改札を抜けると、美沙が待ち構えていた。
お酒を持っていく以上奨められたときに俺もちゃんと飲めるよう、今日は電車でやってきた。
美沙の実家に行ったことがなく、家を知らなかった俺は駅まで彼女に迎えにきてもらった。
緊張しきっていたけれど、いつも通りの美沙に、少しだけ緊張感がほぐれた。
「礼央さんご飯は?」
待ち合わせが12時半。これは彼女からの指定だった。
食事はどうするのかと悩む中途半端な時間であったけれど、実際は悩む必要なんてなかった。
お昼どころか……
「緊張してさ、朝から食べ物が喉を通らない」
かっこ悪いなと思いながらも、正直に白状した。
朝ごはんを食べようかと思ったけれど、ダメだった。だから、落ち着くかと思って、ホットミルクを飲んだくらいで、他は何も口にしていない。
空腹は感じるのに食べられないことが辛い。
俺の緊張が分かっているんだろう、憎たらしいくらい楽しそうに彼女は笑っている。
「そうだと思った。簡単なご飯作ってるから後で食べよう」
「あー、俺の緊張が和らいでいたら頂くよ。お父さんは?」
「それがね……礼央さんと一緒なの」
ククっと、堪え切れなかったのか声を出して笑い始める始末だ。
「お父さんもね、礼央さんが来るのを緊張しながら待ってるよ。2人のために急いで済ませよう」
人の気も知らないで、全くこの子は。
はぁーっとため息が漏れてしまった。
急かされるままに、彼女の後を追い、彼女の実家に向かうべく足を進めた。
足取りは重いままだけど。