【完】白衣とお菓子といたずらと
「ただいまー」

「……おじゃまします」


明るい美沙の声と違って、俺の声は自分でも分かるくらいに堅くて、そして口渇しきっているのか、掠れたものになってしまった。


こっち、こっちと彼女は玄関から上がり框をどんどんと進んでいく。


リビングに案内されると、彼女のお父さんだろうと思われる人物が、ソファに座りテレビを見ていた。いや、見ているというよりは……ただ眺めている、そんな感じだ。


彼女が言っていた、俺と一緒という言葉もあながち間違いではないらしい。


「こんにちは」


部屋に入ると同時に、俺から声をかけた。


声をかけたときに、やっと俺らの存在に気づいたらしく、バッと慌てて俺達の方に振り向いた。


「……どうぞ」


そう言って、お父さんは向かいのソファを指し、俺らにそっちに行くように促した。


緊張しながらも促されるままに彼女と並んでソファの前に移動した。


「初めまして、美沙さんとお付き合いしてます山下礼央です」


立ったまま、一礼をしながら挨拶をした。


「美沙の父です。まー、まずは座ってください」


もう一度どうぞと、促された。硬い体のまま、ぎこちなくソファへと腰を降ろした。


今の俺の動作を表すのに、滑らかなんて言葉は存在しない。
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