【完】白衣とお菓子といたずらと
「……決めていたんだよ」


俺が何も応えられないで居るうちに、顔をあげたお父さんが俺の目をじっと見つめて言葉を続けた。


「娘が……美沙がこの人だと決めてここに連れてきたら、反対はしないと。美沙のことを信じていたからね。昨日の娘からの話で、美沙も真剣で強い意志があることが分かりました。だから、君たちの結婚は反対しない」


「……ありがとうございます。必ず、2人で幸せになります」


「お父さん、ありがとう」


テーブルに頭がつくんじゃないかという勢いで、再び俺は頭を下げた。その俺に続いて彼女も嬉しそうにお礼を言っている。頭を下げた状態では、彼女の表情までは見えなかった。


「その言葉を聞いて安心したよ。その様子だと君も緊張して食事していないんじゃないか?美沙が昼食を作ってくれている。食事にしようか」


「……はい!ありがとうございます」


俺たちの会話を聞いていた美沙が、よいしょと俺の隣から立ち上がった。


「すぐ用意してくるから。……お父さん、飲む?」


立ち上がったのは食事の準備のためらしい。


彼女が尋ねているのは、きっとアルコールのことだろう。


あっ、焼酎。折角持って来たのに、存在を忘れてしまっていた。


もしかすると今の美沙の発言を、俺にそれを思い出させるためだったのかもしれない。


キッチンの方へと向かう彼女の背中に向けて、心の中でありがとうと呟いた。
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