【完】白衣とお菓子といたずらと
「あ…あの……お義父さんはお酒が好きだと聞いたので、つまらない物ですがこれを……」


足元に置いたままになっていた焼酎を慌てて、差し出した。


渡すために選んで買ってきたんものだから。


「わざわざありがとう」


お父さんはスッと俺の手から受け取ると、銘柄を確認し始めた。


一通り眺めたあとに、フッと息を吐いて呆れたように笑った。優しい顔だった。


「全く、美沙は……。しっかりし過ぎているというか、ちゃっかりしているな。美沙がこれを指定しんだろう?」


さすがに父親だ。娘の事はよく分かっているらしく、お見通しだ。


俺が選んでいないなんて印象悪かっただろうか?……不安になった。


ハハ、と乾いた笑いしか出なかった。


「美沙のことだからウチの家計の事が頭を過ぎったんだろう。ありがたく頂くよ。礼央君も一緒にどうだ?」


「はい、頂きます」


電車で来ていてよかった。折角奨めてもらって、断るわけにはいかない。


けれど、酔わないようには気をつけないとな。


「……よかった、今日は私も好きなように飲めるよ。いつもは娘たちが飲みすぎだって口うるさくてね。すぐにストップがかかるんだよ」


女ばかりだと男は肩身が狭いんだと、肩を竦めながらお父さんは言う。


こんな事を言っているけれど、そんな娘たちが好きで、きっとそんなやりとりも嫌いじゃなんだろう。


お父さんの表情は、緩んでいるという表現が1番ふさわしい表情をしている。


つられる様に、俺も自然と笑みが零れていた。
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